「あの歯医者で虫歯を治したにもかかわらず痛くもない歯が逆に痛くてしょうがなくなってしまった。」という話を良く聞きます。またそれが原因でその治療をした歯科医師に対して不信感を抱き私の診療室に転院してくることが度々あります。


しかし、その歯医者さんは決して患者さんを苦しめるために治療したわけではないし、ましてや儲け主義で虫歯のない歯を削ったわけでもないのです。
——–その理由はこんな具合です———–
虫歯の場合レントゲンでの診断では浅く、歯髄(神経)まである程度の距離があり(2ミリほど)軟化象牙質(虫歯の部分)を除去して金属なりレジン(人工樹脂)を詰めて治療が終わりです。
ところが思ったよりも軟化象牙質が深く、追求していくと神経ギリギリまで虫歯が波及していることがままあります。
そこで歯科医は考えます。「ここで神経を取ってしまった方がいいのだろうか?そうすればその後に患者さんが自発痛に苦しむことはないだろう。」
「しかし、現在自覚症状がないのだからその説明をしても理解に苦しむことだろうし、この歯のためにも取らない方が将来また虫歯になったときに痛みを感じることによってよくある無自覚の虫歯の進行を自覚できる」というわけで「近々しみることがあるが一週間ほどで時期に収まりますよ。」と伝えて金属を入れます。
しかしこのことは歯髄炎という非常強い自発痛が起こり得るリスクを伴っております。
このリスクがあっても神経を残すことは患者さんのためだと自分に言い聞かせて治療を終えます。
これで徐々に冷たい水に対する痛みが取れればそれでよいのですが中にはなにも痛みのなかった歯が治療を行った結果自発痛を生じて夜も眠れぬほどになります。
事前に充分説明を行ったにもかかわらず患者さんはぽっかり忘れて「歯医者にいったのに逆に痛みがでてしまった。あのやぶ医者め!!」となってしまうわけです。
では診断を誤った歯科医師が悪いのでしょうか?
この場合治療条件、歯に対する削るときの刺激、水をかけたり空気をかけたりする刺激、型を取るときの刺激、個人個人の痛みに対する許容度などによって違ってくるのです。
例えば、歯科大学では点状の神経の露髄(神経と虫歯が交通している)場合でさえも大丈夫と教えています。
実際、ケースケースによって違ってくるので私ぐらい経験を積んだ歯医者でも一概に予測することが困難で結局神経を取ることになってしまいます。
患者さんの歯を考えた結果、患者さんの信頼を裏切ることがあるのです。